ふすぼり地蔵と聖神社 —— 香西を見守る“祈りと再生”の地
■ 地元に語り継がれる“埋もれた地蔵”の伝説
香川県高松市香西。町の一角にひっそりとたたずむ「ふすぼり地蔵(伏堀地蔵)」は、地域の人々から長く信仰されてきた石仏です。その由来は、一風変わった伝説に彩られています。
かつてこの一帯を流れる用水路の工事中、作業員たちが偶然掘り当てたのは、土に埋もれたままの一体の地蔵尊。その顔は穏やかで、苔と土に包まれながらもどこか慈悲深い風貌をしていたといいます。
地元ではこれを“地蔵が伏していた=ふすぼり”と語り、「この地蔵が埋まっていたから、この地に災いが起きた」と考えた人々は、丁寧に掘り起こし、祠を建て、香を手向けて祀るようになりました。
■ 祈りの場から、町の守り神へ
ふすぼり地蔵は、病気平癒・子どもの成長祈願・旅の安全などを願う場として、特に年配の方々の間で親しまれてきました。
地元の古老によれば、戦後間もない頃には「夜中に地蔵様が光っていた」というような不思議な話が語られることもあったとか。
今も小さな石の祠には線香の香りが漂い、誰かがそっと手を合わせている姿を見ることができます。こうした祈りの場が、現代においても地域の心の支えとなっているのです。
■ 香西の氏神様「聖(ひじり)神社」
ふすぼり地蔵のすぐ近くに鎮座するのが、「聖神社(ひじりじんじゃ)」です。
その創建は古く、平安時代の頃に遡るともいわれており、香西地域の総氏神として長らく地元の人々に崇敬されてきました。
ご祭神は、大己貴命(おおなむちのみこと)——出雲大社の主祭神としても知られる“国づくりの神”。
さらに少彦名命(すくなひこなのみこと)など、農業・医療・国土の安寧を司る神々が合祀されています。
境内には大きな楠がそびえ、春には桜が咲き、秋には赤や黄色の葉が風に舞います。
近年では氏子たちによって整備が進められ、地域の行事や初詣、七五三などの行事でにぎわう、まさに「香西の心のよりどころ」です。
■ 神と仏が並ぶ場所に見る「神仏習合」の風景
興味深いのは、このふすぼり地蔵と聖神社が、わずか数十メートルの距離に共存している点です。
神仏分離以前の日本では、「神も仏も同じように敬うべき存在」とする考え(神仏習合)が一般的でした。その名残が香西にも色濃く残っているといえるでしょう。
神の力によって地域を守り、仏の慈悲によって人々の心と体を癒す。そんな信仰の重なりが、この小さな地域にしっかりと根付いているのです。
■ 昔話と日常が重なる場所
香西に暮らす人々にとって、ふすぼり地蔵や聖神社は、どこか“特別すぎない”存在です。
誰かが風邪をひけばお地蔵様にお参りし、お正月になれば聖神社でおみくじを引く。
そうした日常の中に自然と溶け込んだ信仰が、現代までこの場所を生きた場所として守り続けてきました。
道行く子どもたちが、「あのお地蔵さん、夜になると話すらしいよ」と笑い合いながら通り過ぎる様子に、地域のあたたかさと伝承の力を感じずにはいられません。
🗺️ ご案内メモ
- ふすぼり地蔵:香川県高松市香西本町(小祠)
- 聖神社:香川県高松市香西本町 122
- アクセス:JR香西駅から徒歩約10分
- 見どころ:古木、地蔵祠、静かな参道、季節の花々
🌾まとめ
ふすぼり地蔵と聖神社。
一方は土の中から掘り起こされた再生の象徴、もう一方は地域の営みを見守る氏神。
このふたつの存在は、香西が持つ「守り」と「祈り」の文化を今に伝える貴重な場所です。
香西を歩くときは、ぜひこのふたりの“守り神”に手を合わせ、日々の無事に感謝してみてはいかがでしょうか。